東京地方裁判所 昭和35年(ワ)7825号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告ら先代武藤新作は昭和三四年一二月一五日午後七時ころ東京都墨田区横川町二丁目二番地先道路を横断中、訴外柳賢治の運転する被告会社の小型貨物自動車に衝突され路上にひき倒されて死亡したので、原告らは被告会社にたいし自動車損害賠償保障法第三条により新作の死亡によつて生じた損害を賠償すべきことを求めた。
(一) 原告は本件事故は歩行者優先の原則を無視して、被告の過失に基因するものであると主張したのにたいして被告は被害者新作は飲酒酩酊して注意力を欠き過失があつたと抗争し、更に被告は、(二)本訴は自動車損害賠償保障法に基く損害金の請求であるが、同法は賠償額の最高限度として保障給付額を制限しているのであるから、同法第一七条に基く最高保険給付金額三〇万をもつて損害額の限度とすべきであると抗争した。
判決はみぎ(一)(二)の各論点についてそれぞれつぎのとおり説明している。曰く。
「この原則は前記道路交通取締法第一九条の二第一項に定められているとおり、交通整理の行われている交さ点で信号に従つて横断歩道を通行しているかもしくは信号機のない横断歩道を通行している歩行者についてのみ認められているものであつて、本件における新作のように横断禁止区域でないからといつて唯それだけで常に当然に横断歩道でもないところで、進行してくる自動車を徐行または停止せしめてまで優先的に車道を横断しうることを意味するものではない」
「よつて進んで賠償額について判断する。被告は、自動車損害賠償保険法の趣旨から同法による損害賠償額は同法第一七条による最高給付額たる三〇〇、〇〇〇円を限度とすべきであると主張しているが、自動車損害賠償法は第四条において、損害賠償責任について同法第三条によることを定めているのみで、賠償額の最高限について制限する趣旨の規定はどこにもなく、同法における自動車の保有者が同法第三条による損害賠償責任を怠つた場合にこの責任を履行することによつてうけた損害を保険会社がてん補するための保険契約上の給付額の制限は、全く別箇の観点から設けられたもので、かかる制限の存在を根拠として同法第三条による損害賠償責任の範囲も右の限度にとどめる趣旨であると解すべく理由はどこにもなく、かえつてかかる解釈は任意保険の存在を説明することができないから、とうてい採用の限りでない」